《さば》いたのを、翳《かざ》すばかりに、浪屋の二階を指麾《さしまね》いた。
「おいでや、美津さんえ、……美津さんえ。」
練ものの列は疾《と》く、ばらばらに糸が断《き》れた。が、十一の姫ばかりは、さすが各目《てんで》に名を恥じて、落ちたる市女笠、折れたる台傘、飛々《とびとび》に、背《せな》を潜《ひそ》め、顔《おもて》を蔽《おお》い、膝を折敷きなどしながらも、嵐のごとく、中の島|籠《こ》めた群集《ぐんじゅ》が叫喚《きょうかん》の凄《すさま》じき中に、紅《くれない》の袴一人々々、点々として皆|留《とど》まった。
と見ると、雲の黒き下に、次第に不知火《しらぬい》の消え行く光景《ありさま》。行方も分かぬ三人に、遠く遠く前途《ゆくて》を示す、それが光なき十一の緋の炎と見えた。
お珊は、幽《かすか》に、目も遥々《はるばる》と、一人ずつ、その十一の燈《ともしび》を視《み》た。
[#地から1字上げ]明治四十五(一九一二)年一月
底本:「泉鏡花集成6」ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年3月21日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第十四卷」岩波書店
1942(昭和17)年3月10日発行
※誤植の確認には底本の親本を参照しました。
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2006年11月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全52ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング