。
早瀬 それじゃ一言、清く別れると云ってくんなよ。
お蔦 …………
早瀬 ええ、お蔦。(あせる。)
お蔦 いいますよ。(きれぎれに且つ涙)別れる切れると云う前に、夫婦で、も一度顔が見たい。(胸に縋《すが》って、顔を見合わす。)
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※[#歌記号、1−3−28]見る度ごとに面痩《おもや》せて、どうせながらえいられねば、殺して行ってくださんせ。
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お蔦 見納めかねえ――それじゃ、お別れ申します。
早瀬 (涙を払い、気を替う)さあ、ここに金子《かね》がある、……下すったんだ、受取っておいておくれ。(渡す。)
お蔦 (取ると斉《ひと》しく)手切れかい、失礼な、(と擲《なげう》たんとして、腕の萎《な》えたる状《さま》)あの、先生が下すったんですか。
早瀬 まだ借金も残っていよう、当座の小使いにもするように、とお心づけ下すったんだ。
お蔦 (しおしおと押頂く)こうした時の気が乱れて、勿体ない事をしようとした、そんなら私、わざと頂いておきますよ。(と帯に納めて、落したる髷形《まげがた》の包に目を注ぐ。じっと泣きつつ
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