ではねえ。此《こ》の胸《むね》に、機関《からくり》を知《し》つとります。」
「機関《からくり》か。」
「危険《けんのん》な機関《からくり》だで、小《ちひ》さく拵《こさ》へて、小児《こども》の玩弄《おもちや》にも成《な》りましねえ。が、親譲《おやゆづ》りの秘伝《ひでん》ものだ、はツはツはツ、」
と浮世《うきよ》を忘《わす》れた笑《わら》ひを行《や》る。
「お待《ま》ち、親譲《おやゆづ》りの秘伝《ひでん》と言《い》ふと……」
と言《い》ひ方《かた》は迫《せま》つたが、声《こゑ》の調子《てうし》は大分《だいぶ》静《しづ》まる。
「何《なに》も、家伝《かでん》の秘法《ひはふ》の言《い》ふて、勿体《もつたい》を附《つ》けるでねえがね……祖父《おんぢい》の代《だい》から為《し》た事《こと》を、見《み》やう見真似《みまね》に遣《や》るでがすよ。」
「其《それ》ぢや、三代《さんだい》船大工《ふなだいく》か。」
と些少《すこし》落着《おちつ》いて青年《わかもの》が聞《き》いた。
雪枝《ゆきえ》、菊松《きくまつ》
七
「何《なん》の、お前様《めえさま》、見《み》さる通《とほ》り二十八方仏子柑《にじふはつぱうぶしかん》の山間《やまあひ》ぢや。木《き》を伐出《きりだ》いて谿河《たにがは》へ流《なが》せば流《なが》す……駕籠《かご》の渡《わた》しの藤蔓《ふぢづる》は編《あ》むにせい、船大工《ふなだいく》は要《い》りましねえ。――私等《わしら》が家《うち》は、村里町《むらざとまち》の祭礼《まつり》の花車人形《だしにんぎやう》。木偶之坊《でくのばう》も拵《こしら》へれば、内職《ないしよく》にお玉杓子《たまじやくし》も売《う》つたでがす。獅子頭《しゝがしら》、閻魔様《えんまさま》、姉様《あねさま》の首《くび》の、天狗《てんぐ》の面《めん》、座頭《ざとう》の顔《かほ》、白粉《おしろひ》も塗《ぬ》れば紅《べに》もなする、青絵具《あをゑのぐ》もべつたりぢや。
そんなものさ、甘干《あまぼし》の柿《かき》見《み》たやうに、軒《のき》へぶら下《さ》げて売《う》りましつけ、……水損《すゐそん》、山抜《やまぬ》け、御維新《ごゐしん》以来《このかた》、城趾《しろあと》へ草《くさ》が生《は》へる、濠《ほり》が埋《う》まる、村《むら》も里《さと》も無《な》くなりました処《とこ
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