に似ている。悪孫八が勝ち、無理が通った。それも縁であろう。越後|巫女《みこ》は、水飴《みずあめ》と荒物を売り、軒に草鞋《わらじ》を釣《つる》して、ここに姥塚《うばづか》を築くばかり、あとを留《とど》めたのであると聞く。
――前略、当寺檀那、孫八どのより申上げ候。入院中流産なされ候御婦人は、いまは大方に快癒《かいゆ》、鬱散《うっさん》のそとあるきも出来候との事、御安心下され度《たく》候趣、さて、ここに一昨夕、大夕立これあり、孫八老、其《そ》の砌《みぎり》某所墓地近くを通りかかり候折から、天地|晦冥《かいめい》、雹《ひょう》の降ること凄《すさ》まじく、且《かつ》は電光の中《うち》に、清げなる婦人一|人《にん》、同所、鳥博士の新墓の前に彳《たたず》み候が、冷く莞爾《にこり》といたし候とともに、手の壺|微塵《みじん》に砕け、一塊の鮮血、あら土にしぶき流れ、降積りたる雹を染め候が、赤き霜柱の如く、暫時《しばし》は消えもやらず有之《これあり》候よし、貧道など口にいたし候もいかが、相頼まれ申候ことづてのみ、いずれ仏菩薩の思召す処にはこれあるまじく、奇《く》しく厳《いつく》しき明神の嚮導《きょうどう》指示のもとに、化鳥の類の所為《しょい》にもやと存じ候――
[#地から2字上げ]西明寺 木魚。
和尚さんも、貧地の癖に「木魚」などと洒落《しゃ》れている。が、それはとにかく――(上人の手紙は取意の事)東京の小県へこの来書の趣は、婦人が受辱《じゅにく》、胎蔵《たいぞう》の玻璃《はり》を粉砕して、汚血《おけつ》を猟色の墳墓に、たたき返したと思われぬでもない。
[#地から1字上げ]昭和八(一九三三)年一月
底本:「泉鏡花集成9」ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年6月24日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十三卷」岩波書店
1942(昭和17)年6月22日発行
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2006年3月27日作成
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