敲《たた》いて、開けておくれと言えば、何の造作《ぞうさ》はないのだけれども、止《よ》せ、と留《と》めるのを肯《き》かないで、墓原《はかはら》を夜中に徘徊《はいかい》するのは好《いい》心持《こころもち》のものだと、二ツ三ツ言争《いいあらそ》って出《で》た、いまのさき、内《うち》で心張棒《しんばりぼう》を構えたのは、自分を閉出《しめだ》したのだと思うから、我慢にも恃《たの》むまい。……
 冷《つめた》い石塔《せきとう》に手を載せたり、湿臭《しめりくさ》い塔婆《とうば》を掴《つか》んだり、花筒《はなづつ》の腐水《くされみず》に星の映るのを覗《のぞ》いたり、漫歩《そぞろあるき》をして居たが、藪《やぶ》が近く、蚊《か》が酷《ひど》いから、座敷の蚊帳が懐しくなって、内へ入ろうと思ったので、戸を開けようとすると閉出されたことに気がついた。
 それから墓石に乗って推《お》して見たが、原《もと》より然《そ》うすれば開《あ》くであろうという望《のぞみ》があったのではなく、唯《ただ》居《い》るよりもと、徒《いたず》らに試みたばかりなのであった。
 何《なん》にもならないで、ばたりと力なく墓石から下りて、腕を
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