事《こと》をはべん[#「はべん」に丸傍点]、はべん[#「はべん」に丸傍点]をふかし[#「ふかし」に丸傍点]と言《い》ふ。即《すなは》ち紅白《こうはく》のはべんなり。皆《みな》板《いた》についたまゝを半月《はんげつ》に揃《そろ》へて鉢肴《はちざかな》に裝《も》る。逢《あ》ひたさに用《よう》なき門《かど》を二度《にど》三度《さんど》、と言《い》ふ心意氣《こゝろいき》にて、ソツと白壁《しろかべ》、黒塀《くろべい》について通《とほ》るものを、「あいつ板附《いたつき》はべん」と言《い》ふ洒落《しやれ》あり、古《ふる》い洒落《しやれ》なるべし。
 お汁《つゆ》の實《み》の少《すく》ないのを、百間堀《ひやくけんぼり》に霰《あられ》と言《い》ふ。田螺《たにし》と思《おも》つたら目球《めだま》だと、同《おな》じ格《かく》なり。百間堀《ひやくけんぼり》は城《しろ》の堀《ほり》にて、意氣《いき》も不意氣《ぶいき》も、身投《みなげ》の多《おほ》き、晝《ひる》も淋《さび》しき所《ところ》なりしが、埋立《うめた》てたれば今《いま》はなし。電車《でんしや》が通《とほ》る。滿員《まんゐん》だらう。心中《しんぢう》した
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