《ひら》く時《とき》、紅々《こう/\》白々《はく/\》。
木槿《むくげ》、木槿《はちす》にても相《あひ》分《わか》らず、木槿《もくで》なり。山《やま》の芋《いも》と自然生《じねんじやう》を、分《わ》けて別々《べつ/\》に稱《とな》ふ。
凧《たこ》、皆《みな》いか[#「いか」に白丸傍点]とのみ言《い》ふ。扇《あふぎ》の地紙形《ぢがみがた》に、兩方《りやうはう》に袂《たもと》をふくらましたる形《かたち》、大々《だい/\》小々《せう/\》いろ/\あり。いづれも金《きん》、銀《ぎん》、青《あを》、紺《こん》にて、圓《まる》く星《ほし》を飾《かざ》りたり。關東《くわんとう》の凧《たこ》はなきにあらず、名《な》づけて升凧《ますいか》と言《い》へり。
地形《ちけい》の四角《しかく》なる所《ところ》、即《すなは》ち桝形《ますがた》なり。
女《をんな》の子《こ》、どうかすると十六七の妙齡《めうれい》なるも、自分《じぶん》の事《こと》をタア[#「タア」に傍点]と言《い》ふ。男《をとこ》の兒《こ》は、ワシ[#「ワシ」に白丸傍点]は蓋《けだ》しつい通《とほ》りか。たゞし友達《ともだち》が呼《よ》び出《だ》すのに、ワシ[#「ワシ」に白丸傍点]は居《ゐ》るか、と言《い》ふ。此《こ》の方《はう》はどつちもワシ[#「ワシ」に白丸傍点]なり。
お螻《けら》殿《どの》を、佛《ほとけ》さん蟲《むし》、馬追蟲《うまおひむし》を、鳴聲《なきごゑ》でスイチヨと呼《よ》ぶ。鹽買蜻蛉《しほがひとんぼ》、味噌買蜻蛉《みそがひとんぼ》、考證《かうしよう》に及《およ》ばず、色合《いろあひ》を以《もつ》て子供衆《こどもしう》は御存《ごぞん》じならん。おはぐろ蜻蛉《とんぼ》を、※[#非0213外字:「姉」の正字、第3水準1−85−57の木へんの代わりに女へん、504−14]《ねえ》さんとんぼ、草葉螟蟲《くさばかげろふ》は燈心《とうしん》とんぼ、目高《めだか》をカンタ[#「カンタ」に白丸傍点]と言《い》ふ。
螢《ほたる》、淺野川《あさのがは》の上流《じやうりう》を、小立野《こだつの》に上《のぼ》る、鶴間谷《つるまだに》と言《い》ふ所《ところ》、今《いま》は知《し》らず、凄《すご》いほど多《おほ》く、暗夜《あんや》には螢《ほたる》の中《なか》に人《ひと》の姿《すがた》を見《み》るばかりなりき。
清水《しみづ》を清水《しやうづ》。――桂《かつら》清水《しやうづ》で手拭《てぬぐひ》ひろた、と唄《うた》ふ。山中《やまなか》の湯女《ゆな》の後朝《きぬ/″\》なまめかし。其《そ》の清水《しやうづ》まで客《きやく》を送《おく》りたるもののよし。
二百十日《にひやくとをか》の落水《おとしみづ》に、鯉《こひ》、鮒《ふな》、鯰《なまづ》を掬《すく》はんとて、何處《どこ》の町内《ちやうない》も、若い衆《しう》は、田圃《たんぼ》々々《/\》へ總出《そうで》で騷《さわ》ぐ。子供《こども》たち、二百十日《にひやくとをか》と言《い》へば、鮒《ふな》、カンタをしやくふものと覺《おぼ》えたほどなり。
謎《なぞ》また一《ひと》つ。六角堂《ろくかくだう》に小僧《こぞう》一人《ひとり》、お參《まゐ》りがあつて扉《と》が開《ひら》く、何《なに》?……酸漿《ほうづき》。
味噌《みそ》の小買《こがひ》をするは、質《しち》をおくほど恥辱《ちじよく》だと言《い》ふ風俗《ふうぞく》なりし筈《はず》なり。豆府《とうふ》を切《き》つて半挺《はんちやう》、小半挺《こはんちやう》とて賣《う》る。菎蒻《こんにやく》は豆府屋《とうふや》につきものと知《し》り給《たま》ふべし。おなじ荷《に》の中《なか》に菎蒻《こんにやく》キツトあり。
蕎麥《そば》、お汁粉《しるこ》等《など》、一寸《ちよつと》入《はひ》ると、一ぜんでは濟《す》まず。二ぜんは當前《あたりまへ》。だまつて食《た》べて居《ゐ》れば、あとから/\つきつけ裝《も》り出《だ》す習慣《しふくわん》あり。古風《こふう》淳朴《じゆんぼく》なり。たゞし二百が一|錢《せん》と言《い》ふ勘定《かんぢやう》にはあらず、心《こゝろ》すべし。
ふと思出《おもひだ》したれば、鄰國《りんごく》富山《とやま》にて、團扇《うちは》を賣《う》る珍《めづら》しき呼聲《よびごゑ》を、こゝに記《しる》す。
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團扇《うちは》やア、大團扇《おほうちは》。
うちは、かつきツさん。
いつきツさん。團扇《うちは》やあ。
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もの知《し》りだね。
ところで藝者《げいしや》は、娼妓《をやま》は?……をやま、尾山《をやま》と申《まを》すは、金澤《かなざは》の古稱《こしよう》にして、在方《ざいかた》鄰國《りんごく》の人達《ひとたち》は今《いま》も城下《じやうか》に出《い》づる
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