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 大《おほき》な蛤《はまぐり》、十《と》ウばかり。(註《ちう》、ほんたうは三個《さんこ》)として、蜆《しゞみ》も見事《みごと》だ、碗《わん》も皿《さら》もうまい/\、と慌《あわ》てて瀬戸《せと》ものを噛《かじ》つたやうに、覺《おぼ》えがきに記《しる》してある。覺《おぼ》え方《かた》はいけ粗雜《ぞんざい》だが、料理《れうり》はいづれも念入《ねんい》りで、分量《ぶんりやう》も鷹揚《おうやう》で、聊《いさゝか》もあたじけなくない處《ところ》が嬉《うれ》しい。
 三味線《さみせん》太鼓《たいこ》は、よその二階三階《にかいさんがい》の遠音《とほね》に聞《き》いて、私《わたし》は、ひつそりと按摩《あんま》と話《はな》した。此《こ》の按摩《あんま》どのは、團栗《どんぐり》の如《ごと》く尖《とが》つた頭《あたま》で、黒目金《くろめがね》を掛《か》けて、白《しろ》の筒袖《つゝそで》の上被《うはつぱり》で、革鞄《かはかばん》を提《さ》げて、そくに立《た》つて、「お療治《れうぢ》。」と顯《あら》はれた。――勝手《かつて》が違《ちが》つて、私《わたし》は一寸《ちよつと》不平《ふへい
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