んだ、おかまの神さん
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唄いつつ、廻りつつ、繰り返す。
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画工 (茫然《ぼうぜん》として黙想したるが、吐息して立ってこれを視《なが》む。)おい、おい、それは何の唄だ。
小児一 ああ、何の唄だか知らないけれどね、こうやって唄っていると、誰か一人踊出すんだよ。
画工 踊る? 誰が踊る。
小児二 誰が踊るって、このね、環《わ》の中へ入って踞《しゃが》んでるものが踊るんだって。
画工 誰も、入ってはおらんじゃないか。
小児三 でもね、気味が悪いんだもの。
画工 気味が悪いと?
小児四 ああ、あの、それがね、踊ろうと思って踊るんじゃないんだよ。ひとりでにね、踊るの。踊るまいと思っても。だもの、気味が悪いんだ。
画工 遣ってみよう、俺を入れろ。
一同 やあ、兄さん、入るかい。
画工 俺が入る、待て、(画を取って大樹の幹によせかく)さあ、可《い》いか。
小児三 目を塞《ふさ》いでいるんだぜ。
画工 可《よし》、この世間《よのなか》を、酔って踊りゃ本望だ。
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青山、葉山、羽黒の権現さん
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小児等《こどもら》唄いながら画工の身の周囲《まわり》を廻《めぐ》る。環の脈を打って伸び且つ縮むに連れて、画工、ほとんど、無意識なるがごとく、片手また片足を異様に動かす。唄う声、いよいよ冴《さ》えて、次第に暗くなる。
時に、樹の蔭より、顔黒く、嘴《くちばし》黒く、烏《からす》の頭《かしら》して真黒《まっくろ》なるマント様《よう》の衣《きぬ》を裾《すそ》まで被《かぶ》りたる異体のもの一個|顕《あらわ》れ出で、小児《こども》と小児の間に交《まじ》りて斉《ひと》しく廻る。
地に踞《うずくま》りたる画工、この時、中腰に身を起して、半身を左右に振って踊る真似す。
続いて、初《はじめ》の黒きものと同じ姿したる三個、人の形の烏。樹蔭より顕れ、同じく小児等の間に交って、画工の周囲を繞《めぐ》る。
小児等は絶えず唄う。いずれもその怪《あやし》き物の姿を見ざる趣なり。あとの三羽の烏出でて輪に加わる頃より、画工全く立上り、我を忘れたる状《さま》して踊り出《いだ》す。初手の烏もともに、就中《なかんずく》、後《あと
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