》、衝《つ》と開いて素知らぬ顔す。
画工、その事には心付かず、立停《たちど》まりて嬉戯《きぎ》する小児等《こどもら》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す。
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 よく遊んでるな、ああ、羨《うらやま》しい。どうだ。皆《みんな》、面白いか。
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小児等、彼の様子を見て忍笑《しのびわらい》す。中に、糸を手繰りたる一人《いちにん》。
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小児三 ああ、面白かったの。
画工 (管《くだ》をまく口吻《くちぶり》)何、面白かった。面白かったは不可《いか》んな。今の若さに。……小児《こども》をつかまえて、今の若さも変だ。(笑う)はははは、面白かったは心細い。過去った事のようで情《なさけ》ない。面白いと云え、面白がれ、面白がれ。なおその上に面白くなれ。むむ、どうだ。
小児三 だって、兄さん怒るだろう。
画工 (解し得ず)俺《おれ》が怒る、何を……何を俺が怒るんだ。生命《いのち》がけで、描《か》いて文部省の展覧会で、平《へえ》つくばって、可《い》いか、洋服の膝を膨らまして膝行《いざ》ってな、いい図じゃないぜ、審査所のお玄関で頓首《とんしゅ》再拝と仕《つかまつ》った奴《やつ》を、紙鉄砲で、ポンと撥《は》ねられて、ぎゃふんとまいった。それでさえ怒り得ないで、悄々《すごすご》と杖《つえ》に縋《すが》って背負《しょ》って帰る男じゃないか。景気よく馬肉《けとばし》で呷《あお》った酒なら、跳ねも、いきりもしようけれど、胃のわるい処へ、げっそり空腹《すきばら》と来て、蕎麦《そば》ともいかない。停車場《ステェション》前で饂飩《うどん》で飲んだ、臓府《ぞうふ》がさながら蚯蚓《みみず》のような、しッこしのない江戸児擬《えどッこまがい》が、どうして腹なんぞ立て得るものかい。ふん、だらしやない。
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他の小児《こども》はきょろきょろ見ている。
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小児三 何だか知らないけれどね、今、向うから来る兄さんに、糸目をつけて手繰っていたんだぜ。
画工 何だ、糸を着けて……手繰ったか。いや、怒りやしない。何の
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