とくにいって、衝《つ》と縁側に出た、滝太郎はすっくと立った。しばらくして、あれといったが、お雪は蹶起《はねお》きようとして燈《ともし》を消した。
「周章《あわ》てるない、」といって滝太郎は衝《つ》と戻って、やにわにお雪の手を取った。
「助けてい!」と言いさまに、お雪は何を狼狽《うろた》えたか、扶《たす》けられた滝太郎の手を振放して、僵《たお》れかかって拓の袖を千切れよと曳《ひ》いた。
六十
お雪は曳いて、曳き動かして、
「どうしましょう、あれ、早く貴方《あなた》、貴方。」
拓は動じないで、磐石のごとく坐っているので、思わず手を放して、一人で縁側へ出たが、踏辷《ふみすべ》ったのか腰を突いた。しばらくは起きも得なかったが、むっくと立上ると柱に縋って、わなわなと顫《ふる》えた。ただ森《しん》として縁板が颯《さっ》と白くなったと思うと、水はひたひたと畳に上った。
「ええ、」といって学士も立った。
「可恐《おそろ》しい早さだ、放すな!」と滝太郎は背《せなか》をお雪に差向ける。途端に凄《すさま》じい音がして、わっという声が沈んで聞える。
「お雪! お雪。」
学士も我を忘れて助《たすけ》を呼んだのである。
「あれ、若様、拓さんは、拓さんは目が見えません。」
「うむ、」
「助けて下さい、拓さんは目が見えません。」
「二人じゃあ不可《いけ》ねえや、」
「内の人を、私の夫を。」
「おいら、お前でなくっちゃあ、」
「厭《いや》、厭ですよ、厭ですよ、」と、捕うる滝太郎の手を摺抜ける。
「だって、汝《おめえ》の良人《ていしゅ》なら、おいらにゃあ敵《かたき》だぜ。」
「私は死んでしまいます。」
「へへ、駄目だい、」と唾《つば》するがごとく叫んで、滝太郎は飛んで拓に来た。
「滝だ、大丈夫だ。」
「お雪には義理があるんです、私に構わず、」といって、学士は身を退《すさ》って壁にひたりと背《せな》をあてた。
「あれ、拓さん、」とばかり身を急《あせ》るお雪が膝は、早や水に包まれているのである。
「いや、いけない、」と学士は決然として言放った。
滝太郎は真中《まんなか》に立って、件《くだん》の鋭い目に左右を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》して瞳を輝かした。
「ええ二人ともつかまんな。構うこたあねえ、可《い》けなけりゃ皆《みんな》で死のう。」
雨は先刻《さっき
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