ちゃあ。
 一番《ひとつ》何でもそういったものを、どしどし私たちが頂戴をすることにしようじゃないか。私ばかりでない、まだ同一《おんなじ》心の者が、方々に隠れている、その苧環《おだまき》の糸を引張ってさ、縁のあるものへ結びつけて、人間の手で網を張ろうという意《つもり》でね、こうやって方々歩いている。何、私なんざ、ほんの手先の小使だ、幾らも、お前さんの相談相手があるんだから、奮発をしてお前さん、連判状の筆頭につかないか。」
 意気八荒を呑む女賊は、その花のごとき唇から閃《ひらめ》いてのぼる毒炎を吐いた。洞穴《ほらあな》の中に、滝太郎が手なる燈《ともしび》の色はやや褪《あ》せたと見ると、件《くだん》の可恐《おそろし》い響《ひびき》は音絶《とだ》えるがごとく、どうーどうーどうーと次第に遠ざかって、はたと聞えなくなったようである。

       四十

「もう夜明だ、姉や、分ったい、うむ、早く出よう。そして、おいらもう、この穴へは入るまい。」
 滝太郎は決然として答えた。お兼は嬉しげに手を取って、
「滝さん、それでこそお前さんだ、ああ、富山じゃあ良《い》い事をした、お庇様《かげさま》で発程栄《たちばえ》がする。」
「お前《めえ》、もうちっとこっちに居てくんねえな。おいら勝手に好《すき》な真似はしてるけれど、友達も何《なんに》もありゃしないやな。本当は心細くッて、一向|詰《つま》らないんだぜ。」
「気の弱いことをいうもんじゃあない、私はこれから加州へ行って、少し心|当《あたり》があるんだし、あそこへは先へ行って待合わせている者がある。そうしちゃあいられないんだから、また逢おうよ。そしてお前さんの話をして、仲間の者を喜ばせよう。何の、味方にしようと思えば、こっちのものなんざ皆《みんな》味方さ。不残《のこらず》敵になったって難かしい事はないのだもの。」
「うむ、そんならそうよ。」と頷《うなず》いて身を開いた、滝太郎は今|森《しん》として響《ひびき》も止《や》んだ洞穴の中に耳を澄したが、見る見る顔の色が動いて、目が光った。
「や、山の上で蜩《ひぐらし》が鳴かあ、ちょッ、あいつが二三度鳴くと、直ぐに起きやあがる。花屋の女は早起だ、半日ここに居て耐《たま》るもんかい。」
 ふッと燈《あかし》を消すと同時に、再びお兼の手をしっかと取って、
「姉や、大丈夫だ、暗い内に、急いで。さあ、」
 
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