いだ、一所《ひとところ》の鎌首は、如意《にょい》に似て、ずるずると尾が長い。
二階のその角座敷では、三人、顔を見合わせて、ただ呆《あき》れ果ててぞいたりける風情がある。
これは、さもありそうな事で、一座の立女形《たておやま》たるべき娘さえ、十五十六ではない、二十《はたち》を三つ四つも越しているのに。――円髷は四十|近《ぢか》で、笛吹きのごときは五十にとどく、というのが、手を揃え、足を挙げ、腰を振って、大道で踊ったのであるから。――もっと深入した事は、見たまえ、ほっとした草臥《くたび》れた態《なり》で、真中《まんなか》に三方から取巻いた食卓《ちゃぶだい》の上には、茶道具の左右に、真新しい、擂粉木《すりこぎ》、および杓子《しゃくし》となんいう、世の宝貝《たからもの》の中に、最も興がった剽軽《ひょうきん》ものが揃って乗っていて、これに目鼻のつかないのが可訝《おかし》いくらい。ついでに婦《おんな》二人の顔が杓子と擂粉木にならないのが不思議なほど、変な外出《そとで》の夜であった。
「どうしたっていうんでしょう。」
と、娘が擂粉木の沈黙を破って、
「誰か、見ていやしなかったかしら、可厭《い
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