……わずかに白い門燈を離れたと思うと、どう並んだか、三人の右の片手三本が、ひょいと空へ、揃って、踊り構えの、さす手に上った。同時である。おなじように腰を捻った。下駄が浮くと、引く手が合って、おなじく三本の手が左へ、さっと流れたのがはじまりで、一列なのが、廻って、くるくると巴《ともえ》に附着《くッつ》いて、開いて、くるりと輪に踊る。花やかな娘の笑声が、夜の底に響いて、また、くるりと廻って、手が流れて、褄《つま》が飜《かえ》る。足腰が、水馬《みずすまし》の刎《は》ねるように、ツイツイツイと刎ねるように坂くだりに行《ゆ》く。……いや、それがまた早い。娘の帯の、銀の露の秋草に、円髷の帯の、浅葱《あさぎ》に染めた色絵の蛍が、飛交《とびか》って、茄子畑《なすばたけ》へ綺麗にうつり、すいと消え、ぱっと咲いた。
「酔っとるでしゅ、あの笛吹。女どもも二三杯。」と河童が舌打して言った。
「よい、よい、遠くなり、近くなり、あの破鐘《われがね》を持扱う雑作に及ばぬ。お山の草叢《くさむら》から、黄腹、赤背の山鱗《やまうろこ》どもを、綯交《なえま》ぜに、三筋の処を走らせ、あの踊りの足許へ、茄子畑から、にょっにょ
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