、小母さんが、町の坂まで、この川土手を送ってやろう。
 ――旧藩の頃にな、あの組屋敷に、忠義がった侍が居てな、御主人の難病は、巳巳巳巳《みみみみ》、巳の年月の揃った若い女の生肝《いきぎも》で治ると言って、――よくある事さ。いずれ、主人の方から、内証で入費は出たろうが、金子《かね》にあかして、その頃の事だから、人買の手から、その年月の揃ったという若い女を手に入れた。あろう事か、俎《まないた》はなかろうよ。雨戸に、その女を赤裸《はだか》で鎹《かすがい》で打ったとな。……これこれ、まあ、聞きな。……真白《まっしろ》な腹をずぶずぶと刺いて開いた……待ちな、あの木戸に立掛けた戸は、その雨戸かも知れないよ。」
「う、う、う。」
 小僧は息を引くのであった。
「酷《むご》たらしい話をするとお思いでない。――聞きな。さてとよ……生肝を取って、壺《つぼ》に入れて、組屋敷の陪臣《ばいしん》は、行水、嗽《うがい》に、身を潔《きよ》め、麻上下《あさがみしも》で、主人の邸へ持って行く。お傍医師《そばいしゃ》が心得て、……これだけの薬だもの、念のため、生肝を、生《しょう》のもので見せてからと、御前《ごぜん》で壺を
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