そっちこちに残っていて麗《うららか》に咲いたのが……こう目に見えるようで、それがまたいかにも寂しい。
二条ばかりも重《かさな》って、美しい婦《おんな》の虐《しいた》げられた――旧藩の頃にはどこでもあり来《きた》りだが――伝説があるからで。
通道《とおりみち》というでもなし、花はこの近処《きんじょ》に名所さえあるから、わざとこんな裏小路を捜《さぐ》るものはない。日中《ひなか》もほとんど人通りはない。妙齢《としごろ》の娘でも見えようものなら、白昼といえども、それは崩れた土塀から影を顕《あら》わしたと、人を驚かすであろう。
その癖、妙な事は、いま頃の日の暮方は、その名所の山へ、絡繹《らくえき》として、花見、遊山に出掛けるのが、この前通りの、優しい大川の小橋を渡って、ぞろぞろと帰って来る、男は膚脱《はだぬ》ぎになって、手をぐたりとのめり、女が媚《なまめ》かしい友染《ゆうぜん》の褄端折《つまばしょり》で、啣楊枝《くわえようじ》をした酔払《よっぱらい》まじりの、浮かれ浮かれた人数が、前後に揃って、この小路をぞろぞろ通るように思われる……まだその上に、小橋を渡る跫音《あしおと》が、左右の土塀へ
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