刑罰になるのですか。陸と海と、国が違い、人情が違っても、まさか、そんな刑罰はあるまいと想う。僧都は、うろ覚えながら確《たしか》に記憶に残ると言われる。……貴下《あなた》をお呼立した次第です。ちょっとお験《しら》べを願いましょうか。
博士 仰聞《おおせき》けの記憶は私《わたくし》にもありますで。しかし、念のために験べまするで。ええ、陸上一切の刑法の記録でありましょうか、それとも。
公子 面倒です、あとはどうでも可《い》い。ただ女子《おなご》を馬に乗せ、槍を立てて引廻したという、そんな事があったかという、それだけです。
博士 正史でなく、小説、浄瑠璃《じょうるり》の中を見ましょうで。時の人情と風俗とは、史書よりもむしろこの方が適当でありますので。(金光|燦爛《さんらん》たる洋綴《ようとじ》の書を展《ひら》く。)
公子 (卓子《テエブル》に腰を掛く)たいそう気の利いた書物ですね。
博士 これは、仏国の大帝|奈翁《ナポレオン》が、西暦千八百八年、西班牙《スペイン》遠征の途に上りました時、かねて世界有数の読書家。必要によって当時の図書館長バルビールに命じて製《つく》らせました、函入《はこいり》新
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