キャッと叫んだ。だって私が鳥のように見えたんですもの。どんなに恐かったろう。
この時、背後《うしろ》から母様《おっかさん》がしっかり抱いて下さらなかったら、私どうしたんだか知れません。それはおそくなったから見に来て下すったんで、泣くことさえ出来なかったのが、
「母様《おっかさん》!」といって離れまいと思って、しっかり、しっかり、しっかり襟ん処《とこ》へかじりついて仰向《あおむ》いてお顔を見た時、フット気が着いた。
どうもそうらしい、翼《はね》の生えたうつくしい人はどうも母様であるらしい。もう鳥屋には、行《ゆ》くまい。わけてもこの恐しい処へと、その後《のち》ふっつり。
しかしどうしてもどう見ても、母様にうつくしい五色《ごしき》の翼《はね》が生えちゃあいないから、またそうではなく、他《ほか》にそんな人が居るのかも知れない、どうしても判然《はっきり》しないで疑われる。
雨も晴れたり、ちょうど石原も辷《すべ》るだろう。母様はああおっしゃるけれど、わざとあの猿にぶつかって、また川へ落ちてみようかしら。そうすりゃまた引上げて下さるだろう。見たいな! 羽の生えたうつくしい姉さん。だけれども、まあ、可《い》い。母様がいらっしゃるから、母様がいらっしゃったから。
[#地から1字上げ]明治三十(一八九七)年四月
底本:「泉鏡花集成3」ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年1月24日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第三巻」岩波書店
1941(昭和16)年12月25日第1刷発行
※疑問点の確認にあたっては、底本の親本を参照しました。
入力:門田裕志
校正:カエ
2003年8月30日作成
2005年3月1日修正
青空文庫作成ファイル:
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