様《おつかさん》であるらしい。もう鳥屋《とりや》には、行《ゆ》くまい、わけてもこの恐《こは》い処《ところ》へと、其後《そののち》ふつゝり。
しかし何《ど》うしても何《ど》う見《み》ても母様《おつかさん》にうつくしい五色《ごしき》の翼《はね》が生《は》へちやあ居《ゐ》ないから、またさうではなく、他《ほか》にそんな人《ひと》が居《ゐ》るのかも知《し》れない、何《ど》うしても判然《はつきり》しないで疑《うたが》はれる。
雨《あめ》も晴《は》れたり、ちやうど石原《いしはら》も辷《すべ》るだらう。母様《おつかさん》はあゝおつしやるけれど、故《わざ》とあの猿《さる》にぶつかつて、また川《かは》へ落《お》ちて見《み》やうか不知《しら》。さうすりやまた引上《ひきあ》げて下《くだ》さるだらう。見《み》たいな! 翼《はね》の生《は》へたうつくしい姉《ねえ》さん。だけれども、まあ、可《いゝ》、母様《おつかさん》が居《ゐ》らつしやるから、母様《おつかさん》が居《ゐ》らつしやつたから。(完)[#地付き](「新著月刊」第一号 明治30年4月)
底本:「短篇小説名作選」岡保生・榎本隆司 編、現代企画室
1982(昭和57)年4月15日第1刷発行
1984(昭和59)年3月15日第2刷
※文字づかい・仮名づかいの誤用・不統一、促音「っ」「ッ」の小書きの混在は底本のままとしました。
※「猪子《いぬしゝ》して[#「して」に「ママ」の注記]」は、底本では、「猪《いぬしゝ》子して[#「して」に「ママ」の注記]」となっていますが、初収録単行本「柳筥」では「猪《いぬしゝ》子にして」となっているため、上記のように改めました。
入力:土屋隆
校正:門田裕志
2003年4月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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