がら、またおもむろに花を択《え》り分け初めた。擦《す》りあかめたまぶちに、厳しく拘攣《こうれん》する唇、またしても濃い睫毛の下よりこぼれでる涙の雫《しずく》は流れよどみて日にきらめいた。こうしてしばらく時刻を移していたが、その間少女は、かわいそうに、みじろぎをもせず、ただおりおり手で涙を拭いながら、聞きすましてのみいた、ひたすら聞きすましてのみいた……フとまたガサガサと物音がした、――少女はブルブルと震えた。物音は罷《や》まぬのみか、しだいに高まッて、近づいて、ついに思いきッた濶歩《かっぽ》の音になると――少女は起きなおッた。何となく心おくれのした気色。ヒタと視詰めた眼ざしにおどおどしたところもあッた、心の焦られて堪えかねた気味も見えた。しげみを漏れて男の姿がチラリ。少女はそなたを注視して、にわかにハッと顔を赧《あか》らめて、我も仕合《しあわせ》とおもい顔にニッコリ笑ッて、起ち上ろうとして、フトまた萎れて、蒼ざめて、どきまぎして、――先の男が傍に来て立ち留ってから、ようやくおずおず頭を擡《もた》げて、念ずるようにその顔を視詰めた。
 自分はなお物蔭に潜《ひそ》みながら、怪しと思う心にほ
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