に、「アクーリナ」は太い溜息をして黙してしまッた。
「アア、『ヴィクトル、アレクサンドルイチ』、どうかして、いっしょにいられるようにはならないもんかネー」トだしぬけに言ッた。
「ヴィクトル」は衣服の裾《すそ》で眼鏡を拭い、ふたたび隠袋に納めて、
「それゃア当座四五日はちッとは淋しかろうサ」ト寛大の処置をもって、手ずから「アクーリナ」の肩を軽く叩いた。「アクーリナ」はその手をソット肩から外して、おずおず接吻した。「ちッとは淋しかろうサ」トまた繰返して言ッて、得々と微笑して、「だが已《やむ》を得ざる次第じゃないか? マア積ッてもみるがいい、旦那もそうだが、おれにしてもこんなケチな所にゃいられない、けだしモウじきに冬だが、田舎の冬というやつは忍ぶべからずだ、それから思うと彼得堡《ペテルブルグ》、たいしたもんだ! うそとおもうなら往《い》ッてみるがいい、お前たちが夢に見たこともないけっこうなものばかりだ。こう立派な建家、町、カイ社、文明開化――それゃ不思議なものよ!……」(「アクーリナ」は小児のごとくに、口をあいて、一心になッて聞き惚れていた)
「ト噺《はなし》をして聞かしても」ト「ヴィクトル
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