いで、そしてもったいをつけて物思わしそうに空を視あげながら、その花束を指頭でまわしはじめた。「アクーリナ」は「ヴィクトル」の顔をジッと視詰めた……その愁然《しゅうぜん》とした眼つきのうちになさけを含め、やさしい誠心《まごころ》を込め、吾仏とあおぎ敬う気ざしを現わしていた。男の気をかねていれば、あえて泣顔は見せなかったが、その代り名残り惜しそうにひたすらその顔をのみ眺めていた。それに「ヴィクトル」といえば史丹のごとくに臥《ね》そべッて、グッと大負けに負けて、人柄を崩して、いやながらしばらく「アクーリナ」の本尊になって、その礼拝祈念を受けつかわしておった。その顔を、あから顔を見れば、ことさらに作ッた偃蹇恣雎《えんけんしき》、無頓着な色を帯びていたうちにも、どこともなく得々としたところが見透かされて、憎かった。そして顧みて「アクーリナ」を視れば、魂が止め度なく身をうかれでて、男の方へのみ引かされて、甘えきっているようで――アアよかッた! しばらくして「ヴィクトル」は、……「ヴィクトル」は花束を草の上に取り落してしまい、青銅の框《わく》を嵌《は》めた眼鏡を外套の隠袋《かくし》から取りだして、眼
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