ドリン二錠を服用してすぐ臥床。
金曜日――。
土曜日――。
二日とも喘息發作で遂に臥床。今年は元日以來一度も病臥に及んだ事なく、生れて初めての輝かしき記録だつたが、やつぱり一年間とは通せなかつた。然し、アドリナリン注射を要する強烈な發作には至らずに濟んだ。そして、臥床のお蔭で文藝春秋、三田文學、中央公論、改造、話、オオル讀物、モダン日本などの十二月號、エラリイ・クイインの三作、それに土居市太郎八段から贈られた「將棋作戰學」までも讀み上げてしまつた。この點だけはたまの病臥も惡くないと勝手な事も思ふ。
日曜日――。
やつと喘息發作も鎭まつたので、午後の半日だけ起きてゐたが、夜再び床に就いてラヂオなどを聞いてゐる内に變に體に寒氣がし出したので檢温器をあててみると八度一分、十一時にはそれが九度二分なつてゐた。以前發作で五日一週間を臥床して、それが鎭まる前にはきつと九度、四十度の發熱がお極りだつた。高熱による體内の異和が發作に何が影響するのであらう。これで十月中旬來引きつづいての朝毎の喘息發作も一おう納るのだらうと思ふと、恐らく人によつては非常な苦惱に違ひないところの九度二分の發熱も自分には何物でもなく、一種の肉體的福音なのだ。が、ただいつまでも眠りつけなかつたのはさすがにちつと閉口だつた。(終り)
底本:「三田文學」三田文學會
1936(昭和11)年1月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:小林 徹
校正:松永正敏
2003年12月6日作成
青空文庫作成ファイル:
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