地の變化が一番いいために旅行は可成りした。日本の内地は殆ど足跡あまねく、支那も滿州からはひつて南北の旅を樂しんだ。外に寫眞、音樂、園藝などと各種の趣味をあさつたが、勝負事にも相當に感興を持つた方で、撞球は二十四五歳の頃百五十點[#「百五十點」は底本では「百五十黠」]突いた。近頃熱心なのは將棋で菊池寛二段の飛香落とどうやら戰へる。麻雀も可成り好きで先頃四段をもらつたが、運符天符の麻雀技の段位などはあてにならぬ。病弱で野外スポオツはまるで駄目だが、水泳だけは案外達者である。但し見る方では大なる蹴球、野球のフアン。
 この四五年、自分の作的境地に自信を失ひ、懷疑否定的氣分に陷るとともに創作力はまるで沈衰してゐる。が、近頃は格別あせつて書かうとも思はず、無理に書いたところでいいものが書けようとも思つてゐない。まあぼちぼち行けといふほどの心持である。そして、もし少し澁味のかかつた年頃にでもなつたら、ちつと大袈裟だが、俯仰天地に恥ぢざるよい[#「よい」に傍点]ものが一つや二つは書けるだらうと夢見てゐる。(昭五・一・二〇)
 現住所 麻布區新龍土町一二



底本:「新進傑作小説全集月報第七號(南部修太郎集・石濱金作集付録)」平凡社
   1930(昭和5)年2月15日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:小林徹
校正:伊藤時也
2000年8月7日公開
2006年1月10日修正
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