でゐたが、不良な道樂者のお先棒だつた。無論、教室よりも夜倶樂部《ナイト・クラブ》の御常連で、爛れた歡樂の擧句に懷胎を知るとイングンはその子の父親がフレデリツクであることを臆面もなく兩親に打ち明けた。
名望ある兩家は色を失つた。そして、協議の後、こつそりイタリイ行きの汽船に乘せられ、二人は向ふで結婚の式を擧げたが、花嫁は間もなく女兒を産んだ。然し、二人はすぐにウプサラへ舞ひ戻つて以前に變らぬ逸樂の生活をつづけてゐたが、老男爵がまるで燒石に水のやうな金の流れをせき止めた時、二人は借金の味を覺え出したのだつた。
さりながら、フレデリックは畢竟[#「畢竟」は底本では「竟畢」]悲しき宿命の子だつた。慘劇の三月ほど前、住居に起つた突然の火災、火を烟に卷かれながらも二階の窓から飛び降りて危く遁れた。が、腦震盪を起して人事不省のまま二三週間生死の境をさまよつてゐた。そして、やつと回復はしたが、腦を痛めたか、時々盲目的な憤怒や途方もない慾情の發作に襲はれるやうになつてしまつた。
若樣育ちの一遊蕩兒が身の毛もよだつやうな兇猛な殺人鬼と變つた眞の原因は、傷ましくもそこに潜んでゐたのだつた。
[#地付き]――をはり――
底本:「文藝春秋 七月特別號」文藝春秋社
1936(昭和11)年7月1日発行
※「ゼッテルベルグ」と「ゼツテルベルグ」の混在は底本通りとしました。
※「支配人がさう尋ねると、ソオルはちよつと躊躇の色を見せたが、とにかく一人の紳士がお眼に掛かりたいから、その邊に小部屋はないかね?」」に、はじめ鍵括弧がないのは、底本通りです。
入力:小林 徹
校正:松永正敏
2003年12月6日作成
青空文庫作成ファイル:
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