なく、また格別舌に觸れて有難い風味を持つてもゐなかつた。煙草にすれば、十本何錢程度の安煙草の格で、吸つてゐて一向うまくも何ともない。そして、女は三四度半液體の塗り直しをやつてくれて、盛に吸ひつづけてみたが、豫想してゐたやうな快い恍惚状態に達しもせずと云つて、更に催欲的にもならなかつた。
『まづいもんですね、阿片なんて…………』
 やがて寢臺から起き上つて苦笑しながら、私は女達と雜談に耽つてゐる友の側へ歩いて行つた。
『そりや君、阿片の味がほんとに分るまでには、二月ぐらゐは苦勞しなけりや駄目なんですよ。』
 友は笑ひ返しながら云つた。
[#地付き]――一五・五・六――



底本:「文藝市場」文藝市場社
   1926(大正15)年6月1日発行
初出:「文藝市場」文藝市場社
   1926(大正15)年6月号
※段組の関係で省略されたと考えられる句点は、注記して補いました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:小林 徹
校正:富田倫生
2004年10月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書
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