の露なる、卷を掩ひて寢に就けば、角枕はまた粲たり。そも、かゝるめゝしくをぢなき心を、こと/″\しう書いつけおかむは、人わらはれなるわざにて、はぢがましきかぎりなれど、この頃の筆硯の苦、人情の苦に、窮措大が嚢中の苦さへ、湊合しつる事なれば、後にこの書を見むごとに、おのれひとりが思ひやりにせむとてなり、讀まむ人は、あはれとも見ゆるし給へや。
本篇刊行の久しき年月のうちに、おもひまうけぬ災害の並び臻れること、上にいへるがごとくなれど、誰人かおのれが心事をおしはかりえむ。されば豫約せし人々は、もとより内情を知らるべきならねば、いつも、きびしく遲延をうながされて、發行書林の店頭には、毎回の督責状、うづだかきまでになりぬ、書林は又おのれを責めぬ、そが督責状なりとて持てくるをみれば、文面もさま/″\にて、をかしきもあるがなかに、「大虚槻(おほうそつき)先生の食言海」などしるしつけられつるもありき。おのれは、まさしく約束をたがへぬ、ひとへに謝するところなり、計畫のいたらざりしは、身を恨むる外あるべからず。そも/\、初より、豫約といふ事せしこと、かへす/″\もあやまりなりき、豫約だにせざりせば、かゝるあ
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