の上なら切腹申付けられても否《いな》み様は御座りませぬな。宜しゅう御座りまする。左様当人にも申聞けまして、や、これは、実に、大変な事になりました」
アタフタとして九兵衛は帰り去った。
九兵衛から金三郎等に、召抱えの上切腹云々を密報したので、これには驚いた。
「でも、確かに拙者は落胤で、証拠の脇差も持参の事故《ことゆえ》」
金三郎は半泣きになって愚痴を口走った。
「駄目だよ。トテモ駄目だよ。池田家に取ってその落胤が飛出したので都合が悪いに相違無いのだから、先方に好意が無いのに、こちらから押売してもイカン。召抱えられて見れば池田家の家郎《けらい》。池田家の家来となって見れば、主命に依って切腹仰付けられ、となって見る日になって見ると、お受けをしない訳にも行くまいから。諦めろッ」
参謀たる奥野後良、もう逃げ腰。
「や、それもそうだ。命あっての物種だ」と駒越左内も臆病風《おくびょうかぜ》。
九兵衛は又|家《うち》の大事と。
「どうか少しも早く御立退きを願いまする。お預かりの百両は、宿賃を差引いてお返し致しまするで、や、どうかそうなさった方がお互いの身の為。死んだ尼さんの後葬《あととむ
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