とも云われる新太郎少将も矢張女は可愛かったのだ。侍女《こしもと》に御手が付いて御落胤まである仲だ。人間とかく四角張ってばかりはいられぬものだと、忽ち風紀が弛《ゆる》んで来るは必定。御上の御配慮はそこにあるので、この出羽に何とか分別無いかと、それ故の御密使であろう。こいつはちょっと難問題だと、腕を拱《こまぬ》いたまま考え込んだ。
「や、御苦労御苦労。しからばそれに就てこちらにも考えが御座る。御身早速、半田屋九兵衛を呼出し、内密に申し聞かされえ」
「はッ」
「右の次第は」
これこれと出羽は声を更に一段と潜《ひそ》めて、源之丞の耳近くに密告《ささや》いた。
「はッ、心得て御座りまする」
野末源之丞は池田出羽の密謀を心得て、大急ぎで岡山に立還った。
七
野末源之丞の屋敷へ呼出された半田屋九兵衛。薄々娘との関係を感付かぬでもなかったので、これはきっと金三郎様に取られぬ前に、娘を所望されるのではあるまいかと、そういう心配をしながら罷り出た。
「や、九兵衛。今日は一大事の密議じゃで。遠慮は入らぬ。近う」
「へえ」
「その方の宿泊人に、小笠原金三郎等の一行があろう」
「へえ、三
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