根が張っている。左には石や瓦のかけ[#「かけ」に傍点]が散《ちらか》っている。みな飛降りるのに都合が悪い。ちょうど貴様達二人のいる所が、草の生え具合から土の柔かみで、足場が持って来いだ。それをこの二丈五六尺から高い樹の上から、暗闇の中にちゃんと見分けることのできる俺だのに、貴様達にはそれができぬ。夜目について威張った口を利くのは止《よ》せっ」
これには二人とも驚いた。正《まさ》しく天狗だ。いでその鼻の高いのを、降りて来て見ろ、斬落してくれるぞと、云い合さねど互いに待構えた。
六
「さあ、飛ぶぞ。退《ど》かなけりゃあ片足をすり[#「すり」に傍点]の頭の上に、片足を三ぴんの頭の上に、乗っけて立つように飛んで見せるぞ」
そう云いながら樹上の怪山伏は、一気に二丈五六尺の高さから飛降りた。
「えいっ」
待構えていた小机源八郎は飛降りてまだ立直らないところを、度胆を抜くつもりで刀の背打《むねうち》を食わせようとした。
「はっはっはっ」
後《うしろ》の方で又例の高笑いがした。
前に飛んだのは、大きな幣束《へいそく》であった。後に山伏は早や立っていた。
何しろ大男だ。顔までは能く分らなかったが、丈は雲を突くばかり、手には金剛杖を持っていた。
「生意気な山伏|奴《め》。さあ小机源八郎の闇夜の太刀先を受けて見ろっ」
「いくらでも受けるが、俺の姿が見えるかっ」と山伏は嘲笑《あざわら》った。
「何っ」
一刀両断は神影流の第一義。これ、実の実たる剣法であったのを、見事に身を交わされて、虚の虚とさせられた。
「おのれっ」
二度の打込は虚の実。二段の剣法。正面急転右替の胴切と出たところを、巧みに金剛杖で受留められた。
杖に鉄条でも入っているのか、その杖さえも切落せぬので、源八郎もこれは手ごわいと、先ず気を呑まれた。
源八郎危しと見て、五郎勘七三郎は、種ヶ島の短銃を取出し……までは、好かったが、その時代のは点火式で、火打石で火縄へ火を付けて、その又火縄で口火へ付けるという、二重三重の手間の掛かる間に、金剛杖でぐわんと打たれて、手に持っていた火打鎌が、どこへ飛んだか、夜目自慢の七三郎も、こうなると面食《めんくら》って、見付けられず、手探りに探っている間に、何度頭を金剛杖で撲《なぐ》られたか、数知れず、後には気絶して突伏してしまった。
鋭く斬込んで来る源八郎を扱
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