「変な名だな。それがみな、暗闇祭へ来たのか」
「揃って来たこともありましたが、近在の百姓衆の財袋《さいふ》を抜いたところで高が知れております。しかし、まあ、悪戯《いたずら》をするのが面白いんで、たとえば神様のいらっしゃる境内をも憚《はばか》らず、暗闇を幸いに、男女が密談などしているのを見付けては、知らない間に二人の髷《まげ》をちょん切って置いたりなんかして、脅かしてやりまして、以後そんな不謹慎な事をしないように誡《いまし》めてやりますので」
「去年も五人揃って参ったか」
「それが旦那、それからがお話でございます。夜泣きの半次は御用になりまして、まだ御牢内に居ります。煙の与兵衛は上方へ行って居りまして、一昨年には節穴の長四郎と、逆ずり金蔵と、私と、三人連れで参りましたがね。その時に、えらい目に遭《あ》いましてねえ」

       五

 奇怪極まる五郎助七三郎の話に、小机源八郎はすっかり聴き惚れてしまったのであった。
「どんな目に遭ったのか」
 五郎助七三郎は少しく興奮して、
「あんなのを天狗とでも云いましょうか。夜目の利く私達よりも、もっと夜目の利く山伏風の大男がね。三人で、ちょうどこの裏山で、抜き取った品物を出し合って勘定をしていたところへ、不意に現われて、金剛杖のような物で滅茶滅茶です。三人もじっとして打たれるようなのじゃあありません。懐中《ふところ》に呑んでいた匕首《あいくち》で、魂限《こんかぎ》り立ち向ったんですが、とても敵《かな》いませんでしてね。三人とも半殺しの目に遭わされました。それが原因で逆ずり金蔵は二月ばかり患って死んでしまいました。節穴の長四郎と私は湯治《とうじ》に行くてえような有様で……そこで去年、その敵討というので、すっかり準備をして、長四郎と二人でね、暗闇祭に来ましたがね」
「どんな準備をして」
「目つぶしです。目つぶしを仕入れて、それを叩きつけてから斬付《きりつ》ける手筈でしたが、矢張いけませんでした。長四郎があべこべに眼を潰されて了いました」
「向うから目潰しを投げたのか」
「いいえ、指を眼の中へ突込みやあがったので」
「酷《ひど》い事をするな」
「とうとう私一人になってしまいました。今年は口惜しいから、どうしても私一人で敵《かたき》を討つ了簡で、実は種ヶ島《たねがしま》を忍ばせているんでございます」
「去年も矢張山伏姿か」
「左
前へ 次へ
全16ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング