府委員はメイ・フレデリックの美顔術によってマルクス学の国家理論さえ見下す約束手形を振り出した。しかし次の瞬間が私に東京を去らしてしまった。私は日本が過去の栄華から、幻燈に似た流行を耽溺《たんでき》するプチ・ブルジョワの一群と、実生活から畸型《きけい》的に形成されたブルジョワ末期の社会に発生したプロレタリア精神の出現を、繁雑な社会主義理論闘争から逃れて、私を信仰する一人の女性の涙とともに東京駅を離れて品川の砲台、横目で計算していた。私の旅程――
1 横浜外交官の無線電信の費用見つもり処、グランドホテル・ド・ヨコハマに設計された硝子張りの円舞場でスパルタの女と根岸の外人ティームとの間で弓術試合が行われた。
2 神戸――Aオリエンタル・ハウスの踊子が私を占う。「貴男は二十四歳になる恋人と四十歳になるパトロンによって育成されるのです。貴男は、ガソリンの響にもまして不幸な人なのですが、それでいて自分では幸だと思っていらっしゃるのです。」D西洋長屋に住むルーマニア売笑婦。
3 この夕ぐれを門司の港では木の橋の上で天主教の司祭様が新世界の魚、河豚《ふぐ》を釣りあげていられるのであるが、この糸の
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