院で女の肉体を占領した同志は同時に自己の領地を外国に棄てたのであった。
フィリッピン人のジャズ・バンドが大広間で演奏を始めると、酒杯の味覚が米良を興奮さし、踊子の赤いエナメルの靴尖《くつさき》に打ちつづく自己の災難を忘れて、断髪した朝鮮女と、口唇《くちびる》を馬のように開いて笑う日本女、猫背の支那女、眼脂《めやに》の出たロシア女、シミーダンスの得意なマレー女、計算を爪のなかにかくした独逸《ドイツ》女の腕から腕を地球を周遊するように廻りながら、マダム・レムブルグの華美な安衣裳から透いて見える胴体に潜む夜の唱歌隊を懐しい逃亡者の国土にするのであった。
彼等の陰鬱な思想の仮装舞踊、光線が性的魅力にかくれて、イサックはロシア女の巨大な腰のまわりに赤い旗を立て、陳子文は東洋人らしいどん底を日本女に見出すのであった。レムブルグを抱えた米良が舞踊場に機械が造り出した人間の造花の美と、同志の終りに近づいた純潔を撒《ま》き散らした。檻《おり》から出たミネルヴァの昼と夜とを違えた生きものの影が暗殺者の役目をした。陳独秀が稲妻のように舞踊靴の部屋に這入ってくると、彼は米良にボロジン一味が再び南昌から漢口
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