妾には分りませんわ。しかしいまになって妾はあの男を愛していたような悲壮な気もちがいたしますわ。」
「ふふん、もっともそんな気もちになって喜んでいるのもおたのしみだね。」
彼女の紫色の影が私を× すると言った。
「ねえ、今夜、妾につきあわない。」
私は明暗の多い女を肩ぐるまにのせて、お六の穴倉のような部屋に彼女を運搬した。
夜が明けると、天界ホテルの海辺に面したダンス・ホールで、マリを先頭にして十三人の娼婦が一列に並んで健康のための体操をはじめたが、何故かお六ひとりその列に見えなかった。
底本:「吉行エイスケ作品集」文園社
1997(平成9)年7月10日初版発行
底本の親本:「吉行エイスケ作品集 ※[#ローマ数字2、1−13−22] 飛行機から墜ちるまで」冬樹社
1977(昭和52)年11月30日第1刷発行
※底本には「吉行エイスケの作品はすべて旧字旧仮名で発表されているが、新字新仮名に改めて刻んだ。このさい次の語句を、平仮名表記に改め、難読文字にルビを付した。『し乍ら→しながら』『亦→また』『尚→なお』『儘→まま』『…の様→…のよう』『…する側→…するかたわら』『流石→さすが』。また×印等は当時の検閲、あるいは著者自身による伏字である。」との注記がある。
入力:田辺浩昭
校正:地田尚
2001年2月19日公開
2009年3月15日修正
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