界にもしばしばある。例えばこんな笑い話があった。ある学会で懸賞問題を出して答案を募ったが、その問題は「コップに水を一杯入れておいて更に徐々に砂糖を入れても水が溢れないのは何故か」というのであった。応募答案の中には実に深遠を極めた学説のさまざまが展開されていた。しかし当選した正解者の答案は極めて簡単明瞭で「水はこぼれますよ」というのであった。
颱風のような複雑な現象の研究にはなおさら事実の観測が基礎にならなければならない。それには颱風の事実を捕える観測網を出来るだけ広く密に張り渡すのが第一着の仕事である。
軍艦飛行機を造るのが国防であると同じように、このような観測網の設置も日本にとってはやはり国防の第一義であるかと思われるのである。[#地から1字上げ](昭和十年二月『思想』)
底本:「寺田寅彦全集 第七巻」岩波書店
1997(平成9)年6月5日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
1985(昭和60)年
初出:「思想」
1935(昭和10)年2月1日
※初出時の署名は「吉村冬彦」。
※単行本「蛍光板」に収録。
入力:砂場清隆
校正:多羅尾伴内
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