ということが報ぜられている。色々聞合わせてみてもその現象の記載がどうも要領を得ないのであるが、ともかくも電光などのような瞬間的の光ではなくてかなり長く持続する光が空中の広い区域に現われたことだけは事実であるらしい。こういう現象は普通の気象学の書物などには書いてないことで、果して颱風と直接関係があるかないかも不明であるが、しかし土佐の漁夫の間には昔からそういう現象が知られていて「とうじ」という名前までついているそうである。これが現われると大変なことになると伝えられているそうである。昨年の颱風の上陸したのは早朝であったのでその前にも空はいくらかもう明るかったであろうから、ことによるといわゆる颱風眼の上層に雲のない区域が出来て、そこから空の曙光が洩れて下層の雨の柱でも照らしたのではないかという想像もされなくはないが、何分にも確実な観察の資料がないから何らの尤もらしい推定さえ下すことも出来ない。
 これに聯関して、やはり土佐で古老から聞いたことであるが、暴風の風力が最も劇烈な場合には空中を光り物が飛行する、それを「ひだつ(火竜?)」と名づけるという話であった。これも何かの錯覚であるかどうか信用
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