易に判別する新法が近頃仏国学士院の報告に発表された。その所説に拠れば、疑問の死体をX線で透して撮影すれば、もし本当の死産なれば体内の機関は一つも写らぬが、少しでも空気を呼吸したものなれば胃だけが現れる。またもし胃と腸とが写れば、その子は出生後一時間ないし十四時間生存していたものである。もし数日栄養をとらず生きていたのなれば胃腸の外に肺並びに肝臓が写る。また数日間食物で養われたものなれば内臓諸機関はいよいよ明らかで、なお腸部に発生する瓦斯《ガス》のためこの部が特に明らかに写るとの事である。
[#地から1字上げ](明治四十一年七月二十日『東京朝日新聞』)
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         八十八

      科学者の不遇

 科学者が世界の文明に貢献し自国の栄誉を高めつつあるにもかかわらず一般に不遇であるのは何処《いずこ》も同じと見える。近頃英国の某新聞で陸海軍人の待遇を論じたのについて某科学雑誌記者は次のような事を云っている。「科学研究の重要な事は誰も認めているが何かの場合にはとかく不遇になりがちである。これはつまり国務大臣や宮中の人が科学に縁のない人ばかりだからであろう。先達て宮中の園遊会で音楽者、戯曲家、文学者を招待されたが科学者は呼ばれなかった」とこぼしている。

      蚊の撲滅

 北米バルチモアーでは蚊のためにいろんな病気の流行《はや》るのを防ぐために一昨年市会で二万円ほど支出して撲滅にかかったが、結果がよかったので今年また一万円ほど支出したそうである。方法はやはり水溜りに石油を撒《ま》き、井戸やタンクには金網を蔽《おお》うのである。
[#地から1字上げ](明治四十一年十月二十五日『東京朝日新聞』)



底本:「寺田寅彦全集 第十二巻」岩波書店
   1997(平成9)年11月21日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
   1985(昭和60)年
初出:「東京朝日新聞」
   1907(明治40)年9月3日〜1908(明治41)年10月25日(不定期88回連載)
入力:Nana ohbe
校正:松永正敏
2006年7月13日作成
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