量と脳髄の重量との比例を調べてみた。その結果によれば、比較的重い脳をもっているものは人間の外に手長猿、鸚鵡《おうむ》、はつか鼠、駒鳥などで、これらのものの脳は体量の二十分の一ないし百分の一くらいの目方である。百分の一近辺のものは猩々《しょうじょう》、鹿、猫など、それから下って百分の一より千分の一の間にあるのが麒麟《きりん》、象、羚羊《かもしか》、獅子、袋鼠、鷲、白鳥、雉《きじ》、鼠、蛙、鯉など、なお一層下って千分の一より一万分の一の間には海馬《セイウチ》、鯨、鰐《わに》、海鰻《あなご》、章魚《たこ》などがひかえている。それで現世界における動物の脳の目方は体量の二十分の一以下万分の一の間にあるものと思えばよい。尤も畸形児などでは大きな頭のもあるがそういうのは別である。右の結果で鸚鵡が比較的重い脳をもっている事や、象などが鼠や蛙と相伍しているのはちょっと面白い。
野獣の写真
動物園で色々の野獣の形状だけは見る事が出来ても、その天然の棲所《すみか》でどんな挙動をしているかという事は分らぬ。殊に人目を嫌って逃げるものや、夜間のみ出あるく獣の天真の態度はなおさら知り難い。が、近頃自働的写真器械を森や藪に仕掛けて野獣自身に写真を撮らせた人がある。これには写真器械から小さい糸を前方に張り、獣がこれに触るると同時に器械のシャッターが開いて種板に写る仕掛けがしてある。また夜間ならば糸に触れると点火器の引金が落ち、マグネシウムがパッと燃え上がって、動物は驚いて遁《に》げる間のない中《うち》にカメラに写される。こうして撮った写真を現像する時には、どんな獣が写っているか予《あらかじ》め分っていぬだけ非常に楽しみなものだそうな。
談話に費やす労力
人間が談話をしたり、歌ったり、演説したりする時には、肺の中の空気を若干の圧力で押し出しているが、このために要する器械的の仕事はどれだけであるか、平たく云えば一時間しゃべるにはどれだけの労力をするかという事を測定した人がある。この結果に拠れば、広い室で演説する場合ならば、一時間につき一四四ないし二八八キログラムメートルの仕事をする。もう少し分りやすく換算すれば、一秒ごとに三十五匁ないし七十匁くらいのものを一尺くらい持ち上げるのとほとんど同じくらいである。普通の対話ならばこの五分の一くらいなものだという。但し演壇をあ
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