通常の温度でも圧縮すれば液化するが、空気のごときは摂氏零度以下百四十度という極寒に会わぬといくら圧縮しても液体にならぬ。近来瓦斯を液体にする事が大変に進歩して大抵の瓦斯は皆液化されるようになったが、独り空気中に混ぜるヘリウムのみはどうしても液体にならなかった。しかるに今年三月初めに至って和蘭《オランダ》ライデンの大学教授オンネス氏はついにこれをも液化し得たと伝えられる。
[#地から1字上げ](明治四十一年四月五日『東京朝日新聞』)
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七十三
露国政府と前世界の巨獣
近頃シベリアの東北部ヤクーツク地方で、前世界の巨象マンモスの遺骸が発見せられたので、露国政府ではその研究のために学者を同地方に派遣することとなり、同国学士院の動物学博士等数名が出張を命ぜられたそうである。約一年余の時日を費やす予定で、その費用として一万六千ルーブル(約一万三千円)を国庫より支出することとなったそうである。露国政府が純粋な科学の方面にも冷淡でない一つの例として御紹介するのである。
[#地から1字上げ](明治四十一年四月八日『東京朝日新聞』)
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七十四
温泉中のヘリウム瓦斯
前条にヘリウムの事を述べたついでにもう一つこの瓦斯に関する話をする。近頃鉱泉中にこの瓦斯が含まれている事が知られた。仏国で調べた結果によると〇・一ないし五・三プロセントくらいの割合で含まれている。これを採取するには液化した空気で冷却し木炭に吸収させるそうである。この瓦斯はもと太陽中に存する事は日光の分析から知られていてそのためにヘリウム(太陽素)と名づけられたが、しかし地球上の空気中にも存するという事はわずかに数年前発見せられたのである。最も軽いそして他元素と化合し難いものである。近年ラジウムの研究が進むにつれ、ヘリウムはラジウムより変化して出来るものだという事が知れ、元素というものは変化せぬ物だという従来の考えを打破ったので科学者の注目をひいている。
[#地から1字上げ](明治四十一年四月九日『東京朝日新聞』)
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七十五
唖に言語を教うる法
電話や蓄音機の発明に依って有名なグラハム・ベル氏はまた唖者に言語の発音を教うる法に関する著者として知られている。近頃その著書の再
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