近頃写真電送という事が大分評判になったが、従来の法はみな電線によって電流を伝えるのである。ところが、昨年の暮に仏国で試験したペルジョンノオ式というのは、長い導線を引かずに無線で写真を電送するのだそうな。パリとマルセーユ間で試験の結果、好成績を得たと伝えられている。
[#地から1字上げ](明治四十一年三月二十日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         六十八

      真珠の採取にX光線の応用

 世界中の真珠産地で年々に採る母貝の数は夥《おびただ》しいものであるが、その中で真珠を含んでいるのは比較的に少ない、それで母貝の多数はつまり無駄に殺されてしまう事になる。もし貝を開かずに真珠の有無を験する事が出来れば非常に無駄が省ける訳である。ところが今から七年前にジュボアという人がX線で真珠貝の写真を撮り珠を験する事を考え出したが、なにしろ沢山な貝の写真を撮るのはかなりに手数でもあり費用もかかるところから、実業社会の注意を惹《ひ》くに至らなかった。しかるにまた近来ニューヨークのソロモンという人が同じ考えを起して大仕掛けに資本をかけてこの法を用いる事になったそうである。叺《かます》のような物に母貝を沢山に並べたのを一度に写真にとる。そして真珠のあるのはすぐに採り出し、ないのは養殖場へかえすそうである。この法が果して収支相償って利益があるかどうかは他日を待たねば分らぬが、とにかく米国人が科学の応用に熱心な一例と見る事が出来る。
[#地から1字上げ](明治四十一年三月二十一日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         六十九

      光線と眼

 薄暗がりで読書などすると、じきに眼が疲れて来る。永く続けると非常に眼を害するのは誰も知る通りであるが、またあまり強い光も眼に害がある。例えば太陽などを長く見つめるのは恐ろしい病の基である。インドでは宗教上の迷信から太陽を強いて直視するために内障眼《ないしょうがん》を起す者が沢山ある。またロシアのある地方で牧牛が白皚々《はくがいがい》たる雪の強い光のため眼病を起すのを防ぐとて一種の眼鏡をかけさせた話がある。それほどに強くない光でも永い間には案外の害を及ぼすから、灯光などでもなるべく裸火を廃して磨硝子《すりガラス》の玉ボヤのようなものをかけた方がよい。近頃の話だが、米国のある夜学校で強い電灯を点じ
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