電流計の鏡が著しく動く。この事を利用して重罪嫌疑者の審問に使おうというのがいわゆる測心器の目的であるそうな。先ず嫌疑者の両の手に器械の電極をシッカリ握らせておいて、色々の問を掛ける、そのうちにギックリ胸にこたえる事があると器械の鏡から反射する光線がピクリと動く。いくら平気を粧うて胡麻化そうとしても駄目だという事である。この器械がいよいよ成効するかどうかは未だ判らぬが、とにかく面白い発明である。も少し早くこの器械が出来ていてそして男三郎《おさぶろう》の審問などに使ったら面白かったろうに。

      電気療法のさまざま

 強い電光で皮膚病、殊に狼瘡《ろうそう》などを治すいわゆるフィンゼン療法は数年前から行われている。またエッキス線で照らして皮膚や血液の病を癒《いや》す事も往々あるが、しかしこの線のために癌腫《がんしゅ》を生じた例があるから注意を要するとの事。次に電気浴の新しいやり方は盥《たらい》四つに四肢を別々に入れ電気を通すので心臓病や痛風などに好いという。また強い電光に全身を浴するとトルコ風呂よりも薬になるそうである。次にちょっと耳新しいのはロシアの某医師が患者の咽喉の中へ紫色の電灯を点じて喉頭の病を治した事である。その他、中耳や眼の治療にも電灯を用いる事があるそうな。次には痛みなしに歯を抜くためテスラ電流を用いる事。このテスラ電流というのは非常に高圧なそして非常に頻繁な交番電流であるが、これを局部に通すと一時そこが麻痺してしまう、その間に手早く引抜いてしまうという趣向で、この法は他の外科手術にも応用される事と思う。次には電気按摩器械、これは以前から我邦《わがくに》へも渡っている。槌《つち》のような形をした物の中に小さい電動器《モートル》があってこれが回転すると槌がブルブルふるえる、そこで槌の頭を肩なり腰なり、すきな処へ当てれば、好い工合に按摩が出来るという仕掛けである。
[#地から1字上げ](明治四十年九月四日『東京朝日新聞』)
[#改ページ]

         三

      火災と電気

 灯用としての瓦斯《ガス》と電気と、どちらが火事を起しやすいかという事は議論の種になっているが、近頃新しい統計によると、電気から起るのが〇・一五ないし〇・二〇プロセント、瓦斯から起る方が〇・二三ないし〇・四〇プロセントだという。すなわち瓦斯の方が少し悪い事になってい
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