内の消毒

 船中で鼠を駆《か》り、また消毒をするために亜硫酸瓦斯を用うる事があるが、その効験に関する詳細な調査の結果に拠れば、鼠や害虫の類はわずかに〇・五プロセントの亜硫酸を含む空気で二時間も燻《いぶ》せば絶滅する事が出来る。しかし積荷の奥底まで行き渡らせるためには約三プロセントくらいにしなければならぬ、これならば大抵の病菌も死ぬるという事である。織物類、金属器具等はこの瓦斯には害せられぬが、硫黄を燃やして亜硫酸を発生せしめる際硫酸の瓦斯も伴って出るからこれが少々損害を及ぼす。肉類、果物、蔬菜の類もまた多少の損害を免れぬという。
[#地から1字上げ](明治四十年十月十三日『東京朝日新聞』)
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         十八

      優しい返答

 シカゴ市のある青年紳士が一日電話をかけようとしたが、どういう都合であったか接続が大変手間が取れるので紳士は癇癪《かんしゃく》を起して交換手を怒鳴りつけた。その相手の交換手はイリノイ州出の女であったが、非常に優しい声で可憐な返答をしたその声が妙に紳士の心を動かし、それが縁となってとうとう目出度く結婚する事となった。これは嘘のような話だが事実である。

      長さ一マイルの手紙

 米国のある水兵が電信用の紐紙《ひもがみ》に細々《こまごま》と書いた手紙をその友に送った。その長さ一マイル余でこれを書き上げるのに二週間かかったという。おそらく開闢《かいびゃく》以来の長い手紙であろう。こんな手紙を貰うた人こそ災難だったろう。
[#地から1字上げ](明治四十年十月十四日『東京朝日新聞』)
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         十九

      植物の生長

 ロンドンの王立植物園で植物の生長に有効あるいは必要な諸種の条件について調査した結果の報告書によれば、第一に強烈な弧灯《アークとう》より出ずる紫外光線、第二には根より幹に不断に通う電気、第三には華氏七十ないし八十度において適当の湿度と炭酸瓦斯の供給、第四には理想的の窒素肥料、第五には根に充分なる水の供給、この五つの条件が揃えば植物は理想的に成長するとの事である。そして面白い事にはこれらの条件はただ石炭さえあればほとんどすべて充たされる。すなわち石炭を燃やして発電機も動かされる。熱も炭酸も湿気も出来る。窒素肥料の硫酸アンモニアもまた石炭から採ることが出来るという
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