じ一巻の中にさえも現われ、また特にその後に作る他の巻の中に再現したがるものである。
 この種の観念群の中には、普遍性はないまでも個人個人にはともかくも事件的の連関の記憶が現存していて、それを説明しさえすれば他人も納得するような種類のものも多いが、しかしまた中には自分自身に考えてもどうしても二つのものの間の連鎖が考えられないようなものがないでもない。たとえば、私が鮓《すし》を食うときにその箸《はし》にかび臭いにおいがあると、きっと屋形船に乗って高知《こうち》の浦戸湾《うらとわん》に浮かんでいる自分を連想する。もちろんこれは昔そういう場所でそういう箸《はし》で鮓《すし》を食った事があるには相違ないが、何ゆえにそういう一見|些細《ささい》なことがそれほど強い印象を何十年後の今日までもとどめているのであるか、これには現在の自分には到底意識されない理由があるに相違ないのである。その理由は別問題としてこういう私の頭の中だけにある観念群は連句制作の場合にはかなり重要な役目をつとめることができる。たとえば「屋形船」を題材とした前句に付け合わせようというような場合が起こったとする。その時私はすぐに「鮓」
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