ロイドが「植物に関する彼の著書が彼の前に置かれてあり、そのぺージをめくっていると一枚の彩色絵がさし込んであり、また一枚の※[#「月+昔」、第3水準1−90−47]葉《さくよう》がとじ込んである」という夢を分析した結果によると、この「植物学の著書」というだけの一見きわめて簡単なる内容が実は非常に多様な体験を接合するための一つの中間介在物であり、言わば扇のかなめのようなものになっている。すなわちこれはその日偶然通りかかったある店先で見た他人の他の事に関する植物学の著書につながると同時に、自分の昔書いたある論文につながり、次いでその論文に連関した大学研究室のいろいろの出来事につながり、また一方ではある眼科医へつながる。この眼科医とその前日現に出会って用談をしているうちに邪魔がはいって談を中絶された事があったのである。それからまたその「植物の」というだけがある他のプロフェッサーからその美しい夫人それから他の婦人患者といったふうにいろいろの錯綜《さくそう》した因果の網目につながっている。かくのごとくにしてこの一見はなはだつまらぬ「植物学の著書」はこれらの多数な夢思想の全体を引率するに最も適当な、
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