加えうる見込みがあり、そうした後に多くの良果を結ぶ見込みのありそうなものであっても、それが単に現在の形において質的であることの「罪」のために省みられず、あるいはかえって忌避されるようなことがありはしないか、こういうことを反省してみる必要はありはしないか。
むしろそういう研究を奨励することが学問の行き詰まりを防ぐ上に有効でありはしないか。
もちろん多くの優秀なる学徒たちは何もわざわざそういう質的の、容易なようで実はむずかしい実験などをやらなくても、立派に量的であって、しかもおもしろくて有益であるような研究に従事するほうが賢明であり能率が良いと考えるであろうし、またそれはまさにそのとおりである。それだけならば何も問題はないのであるが、しかしもしそういう人たちがかりにそういう人たちとは反対にわざわざ難儀で要領を得ない質的研究をしている少数な人たちの仕事を、意識的、ないしは無意識的に discourage しあるいは積極的に阻止するようなことが、たまにならばともかく、学界一般の風《ふう》をなすようなことがあったとすればどうか、そういう事が実際にあるかないか。これも一応反省してみなければなら
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