大飛躍を与えるのである。ダイアモンドを掘り出せば加工はあとから出来るが、ガラスはみがいても宝石にはならないのである。
現代のように量的に進歩した物理化学界で、昔のような質的発見はもはやあり得まいという人があるとすれば、それはあまり人間を高く買い過ぎ、自然を安く踏み過ぎる人であり、そうしてあまりに歴史的事実を無視する人であり、約言すれば科学自身の精神を無視する人でなければならない。
重大な発見の中でいわゆる Residual phenomena の研究から生まれるものがある。これらはもちろん非常に精密なる最高級の量的実験の結果としてのみ得られるものである。たとえばあまりに有名なルヴェリエの海王星における、レーリーのアルゴンにおけるごときものである。また近ごろの宇宙線(Cosmic ray)のごときものもそうである。これらの発見の重大な意義はと言えば、それらのものの精密なる数値的決定より先にそれらのものが「在《あ》る」ということを確立することである。もっともそのためには精密な計画と行き届いた考察なしには手を出せないことは言うまでもないことであるが、その際得る数字の最高精度は少なくも最初
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