規則にいろいろな建物が重なり合って立っている。みんな妙によごれくすんでいるが、それがまたなんとも言われないように美しい絵になっている。それは絵はがきや錦絵《にしきえ》の美しさではなくて、どうしても油絵の美しさである。……
植物園では仏桑花《ぶっそうげ》、ベコニア、ダリア、カーネーション、それにつつじが満開であった。暑くて白シャツの胸板のうしろを汗の流れるのが気持ちが悪かった。両手を見るとまっかになって指が急に肥《ふと》ったように感じられた。
ケーブルカーの車掌は何を言っても返事をしないですましていた。話をしてはいけない規則だと見える。急勾配《きゅうこうばい》を登る時に両方の耳が変な気持ちになる。気圧が急に下がるからだという。つばを飲み込むと直る。ピークで降りるとドンが鳴った。涼しい風が吹いて汗が収まった。頂上の測候所へ行って案内を頼むと水兵が望遠鏡をわきの下へはさんで出て来ていろいろな器械や午砲の装薬まで見せてくれる、一シリングやったら握手をした。……
夕飯後に甲板へ出て見るとまっ黒なホンコンの山にはふもとから頂上へかけていろいろの灯《ひ》がともって、宝石をちりばめた王冠のように
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