うの内地は一面に暑そうな靄《もや》のようなものが立ちこめて、その奥に波のように起伏した砂漠《さばく》があるらしい。この気味のわるい靄《もや》の中からいろいろの奇怪な伝説が生まれたのだろう。
 土人がいろいろの物を売りに来る。駝鳥《だちょう》の卵や羽毛、羽扇、藁細工《わらざいく》のかご、貝や珊瑚《さんご》の首飾り、かもしかの角《つの》、鱶《ふか》の顎骨《がくこつ》などで、いずれも相当に高い値段である。
 船のまわりをかなり大きな鱶が一匹泳いでいる。その腹の下を小さい魚が二尾お供のようについて泳いでいる。あれがパイロットフィッシュだとだれかが教える。オランダ人で伝法肌《デスペラド》といったような男がシェンケから大きな釣《つ》り針《ばり》を借りて来てこれに肉片をさし、親指ほどの麻繩《あさなわ》のさきに結びつけ、浮標にはライフブイを縛りつけて舷側《げんそく》から投げ込んだ。鱶《ふか》はつい近くまで来てもいっこう気がつかないようなふうでゆうゆうと泳いで行く。
 自分と並んで見ていた男が、けさ早く鯨の潮を吹いているのに会ったと話していた。鱶《ふか》はいつまでも釣れそうにはなかった。
 土人が二人、
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