蜂が団子をこしらえる話
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)この翡翠《ひすい》の色

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)蜥蜴《とかげ》が一|疋《ぴき》横たわっていた。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)どうだん[#「どうだん」に傍点]にも
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 私の宅の庭の植物は毎年色々な害虫のためにむごたらしく虐待される。せっかく美しく出揃った若葉はいつの間にかわるい昆虫のために食い荒らされる。なかんずくいちばんひどくやられるのは薔薇である。羽根が黒くて腰の黄色い小さな蜂が、柔らかい若芽の茎の中に卵を産みつけると、やがて茎の横腹が竪にはじけ破れて幼虫が生れ出る。これが若葉の縁に鈴成りに黒い頭を並べて、驚くべき食慾をもって瞬く間にあらゆる葉を食い尽さないではおかない。去年はこの翡翠《ひすい》の色をした薔薇の虫と同種と思われるものが躑躅《つつじ》にまでも蔓延した。もっともつつじのは色が少し黒ずんでいて、つつじの葉によく似た色をしているのが不思議であった。
 何とかしてこの害虫を絶滅する方法はないものだろうかと思うだけで
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