厄年と etc.
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)強《し》いて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある朝偶然|縁側《えんがわ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)さなぎ[#「さなぎ」に傍点]
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気分にも頭脳の働きにも何の変りもないと思われるにもかかわらず、運動が出来ず仕事をする事の出来なかった近頃の私には、朝起きてから夜寝るまでの一日の経過はかなりに永く感ぜられた。強《し》いて空虚を充たそうとする自覚的努力の余勢がかえって空虚その物を引展《ひきの》ばすようにも思われた。これに反して振り返って見た月日の経過はまた自分ながら驚くほどに早いものに思われた。空漠な広野の果を見るように何一つ著しい目標のないだけに、昨日歩いて来た途《みち》と今日との境が付かない。たまたま記憶の眼に触れる小さな出来事の森や小山も、どれという見分けの付かないただ一抹《いちまつ》の灰色の波線を描いているに過ぎない。その地平線の彼方には活動していた日の目立った出来事の峰々が透明な空気を通して手に取るように見えた。
それがため
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